このたび msb gallery では、ホリグチシンゴ個展「 POLY -transparency 」を開催いたします。
近年のホリグチは自らを”両目派”と名乗り、人間が2つの眼球で捉えた映像が脳内で統合されるプロセスを絵画に翻訳するというアプローチをしてきました。
複数の図像を一つの平面に編み合わせることによって、地と図が複雑に貫入し合う構造を絵の内部に作り出そうと試みています。
今回の展覧会では、新たな要素としてアクリル絵具の透明感を活かした表現を加えることで、実/虚の透明性が更に重合した絵画空間を目指しています。
ここ数年の彼の実験的な制作の一つの成果を是非ご覧ください。
ステートメント
自分が絵で目指す構造は画面の中の地と図が相互に貫入しあうような状態。どの部分が一番手前にあるのか確定していない状態。さまざまな可能性が揺らぎを残したまま絵に定着している状態。自分が求めるこの揺らいでいる感じは、肉眼でものを見ている時に、視界の色んな場所に視線が飛んだり、ピントが動いたりして、脳内の像が常に揺れ動いているのに、似ている。
画面の中の地と図が相互に貫入しあうような構造は、セザンヌ、キュビズム以降の近代絵画の一番重要な要素ではないだろうかと考える。そして本邦の美術(教育)にはこの要素があまり上手くインストールされていないのではないか?何故なら、先行の国内の作家の仕事を辿って見た時に、その構造を取り入れるのに成功しているように見える事例があまりに少ないから。
2022年以降の制作で取り組んできたのは、両目で見ている時の揺らぎをいかに自分の絵に取り込むか。ということだったけれど、これは結果的に、セザンヌから初期のキュビズムで生じた、相互貫入する構造をいかに画面にインストールするか、というトライアルになっていった。後から気がついたことだけど。
それは近代絵画の車輪の再発明だったのかも。それに取り組んでいる時はそうは思っていなかった。しかしだからこそ、リアルタイムの近代の画家たちとは微妙にズレたアプローチで、地と図を貫入させる手法を編み出せたかもしれない。
現代に生きる自分はコンピューターを使って、画面の構造を何度でもシュミレートできる。制作にあたっては、画面上に直接描いた図像と他の支持体に描いた別の図像を複数用意し、それぞれスキャンしたものをPhotoshop上で編み合わせるように合成する。そして出来た図像を、その合成するプロセスそのものも一部なぞりながら絵具で描画していく。複数の図像を編み合わせる過程は、絵ごとにかなり異なるし、複雑でここで説明しきるのは難しいのだけど、感覚的に言うと、時間を前に進める作業と、時間を戻す作業(control+Z)が複雑に折り重なって、圧縮されたものが絵の表面に現れている。
複数の図像を編み合わせる時に、それぞれの図像を壊しながら編み合わせていくので、完成させようがない壊れた状態のものを作っているような感覚がある。ではこの制作はどこをフィニッシュとするのか?元になった複数の図像が、一つの平面上にそれぞれ存在したかもしれない可能性、が最も拮抗した状態。つまり可能性が揺れている状態が、自分が最初に目指した、肉眼で見た像が脳内で揺れている状態に近いはず。
話は変わるが、TENETという映画を見たことがあるだろうか?時間が逆に流れる敵勢力が存在し、我々と同じ正の時間軸で生きるエージェントが戦うという内容だが、その中に“逆行弾”というアイテムが出てくる。逆行弾は敵勢力が使用する武器で、銃弾が最初から対象に当たった状態で存在していて、銃を握って念じると銃に向かって戻ってくるという武器だ。では最初から対象に当たっていた逆行弾はいつからそこにあったのか?という謎はこの映画の中では教えてくれない。この映画のストーリー、非常に難解で自分は半分も内容を理解していないが、この数年の自分の制作と妙にリンクする部分がある。
パソコン上で複数の図像を編み合わせるシュミレーションぼ過程で、順行と逆行の時間を操作し、出来上がっていく図像は、どこか自分が作ったという感じがしなくなってくる。未来の別の時間軸の自分から現在の自分に向かって転送されてきたような、そんな感覚。最初から壁に埋まっていた逆行弾のように。この絵は一体どこから来たのか。当然自分が描いた。しかし、自分が求める絵は、未来から送られてきたかのように、最初から存在し、複数の時間軸の可能性が顕現して揺れ動いている。この絵はどこから来たのか?少なくとも描き始めないことには未来は私に絵を転送してくれない。その絵が存在するタイムラインに向かって、跳ばないことには。
ホリグチシンゴ
ホリグチシンゴ
1993 京都府生まれ
2016 多摩美術大学絵画学科日本画専攻 卒業
2018 多摩美術大学大学院博士前期過程絵画専攻日本画研究領域 修了
個展
2025 「Polymerization」亀戸アートセンター, 東京
2024 「POLY -viewpoint」obi gallery, 神奈川
2023 「EYE-BALLS ADVENTURE par:2」柳沢画廊(Gallery pepin 企画運営), 埼玉
「EYE-BALLS ADVENTURE part:1」 LOOP HOLE, 東京
2021 「The Field and Daylight 3.2」 tagboat, 東京
「The Field and Daylight 3.0」 数寄和, 東京 2020 「FUZZY CRAWL」 アートスペース羅針盤, 東京 2019 「BEAST / HUMAN / MACHINE」亀戸アートセンター, 東京
「Vapor under the city」 数寄和, 東京
2018 「Drone’s eye(half a person)」 tagboat, 東京
「The Field and Daylight2.0」 アートスペース羅針盤, 東京
2017 「The Field and Daylight montan」O-librO, 千葉
「The Field and Daylight」 ガレリア青猫, 東京
滞在制作
2022 みなとメディアミュージアム2022, 茨城
受賞
2024 KAMIYAMA ART カドリエンナーレ 大西若人賞 上野の森美術館, 東京
第59回神奈川県美術展 平面立体部門 県議会議長賞 神奈川県民ホール, 横浜
2018 ギャラリーへ行こう 2018 数寄和賞 数寄和, 東京
Independent Tokyo 2018 TAGBOAT賞 浅草橋ヒューリックホール, 東京
第13回大黒屋現代アート公募展 入選 板室温泉大黒屋, 栃木
2017 金谷美術館コンクール2017 入選 金谷美術館, 千葉
2014 夢美エンナーレ入選作品展 奨励賞 夢美術館, 東京